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東京に生まれ、千葉県で育つ。大学進学をきっかけに山形県に移住。在学中に日本酒に興味を持ち、新卒で山形県酒田市にある「初孫」の蔵元、東北銘醸株式会社へ就職。県内出身ではない移住者ながら、蔵人(くらびと)として日々酒づくりに携わっている。
■ 微生物から日本酒へ
東京に生まれて千葉で育ち、現在実家は茨城県にあるという浅井さん。ずっと関東で過ごしてきたが、微生物の勉強をするために選んだ進学先が縁で山形県に移住した。
「目に見えないのに微生物は自分の周りにたくさん存在していて、それがないと生活が成り立たないということが面白い」と、浅井さん。
そんな浅井さんが日本酒に興味を持ったのは、サークルの先輩や友達がきっかけだった。中でも当時アルバイトをしていた焼肉屋は日本酒の品ぞろえが豊富で、仕事をしているうちに自然と知識が増えていったという。そしていつしか、呑む側だけでなく作る側へと一歩を踏み出した。
とはいえ日本酒造りに関わる家業を営んでいたわけでもなかったため、当初は作り手ではなく、なるべく酒づくりに近いところへ就職しようとしたのだとか。農業系や商社など様々トライを繰り返したものの、就職難の影響で芳しい結果は得られなかった。それならば県内の酒蔵にかたっぱしから問い合わせてみようと電話を掛けた一社目が、現在仕事をしている東北銘醸株式会社。見事合格を勝ち取った浅井さんは、蔵人として日本酒製造に携わることとなった。
■ 蔵人としての仕事
運命的に東北銘醸株式会社に入社した浅井さんも、今年で10年目。工程の全般に関わりつつ、主な仕事は酵母の管理だという。
「9月~4月の造りの時期はシフト制の勤務で、休みは酒造りのスケジュール合わせ。微生物等の管理や酒造りの現場作業と休みの両立が結構複雑で大変」と語る。「また、手で剥かなければならない果物は皮に微生物がいるので注意が必要。特に納豆は、麹室が納豆菌に汚染される恐れがあるため、日本酒造りにおいては絶対ダメです。他にも、香りの強いものは食べない、常に深爪くらいに整える、指先の感覚で作業をするので手あれがひどくならないようにケアする、いつも清潔を保つなど、蔵人として気を付けていることは色々あります」。
聞いているだけでは制約が色々あり大変そうという印象を持ってしまうが、やりたかったことを仕事にしているので、大した苦労ではないのだとか。
■ 14年目の山形暮らしで思うこと
雪とはあまり縁のない関東圏から山形に移住して14年目が経ち、山形での暮らしが合っていると感じているという浅井さん。
「ただ、雪は大変です。だから好きなのは、雪が降らない季節ですね」と笑う。
特に気に入っているのは、景色や温泉。夫婦でドライブが趣味という浅井さんは、酒づくりの季節以外は県内の様々な場所を車で訪れるという。そして帰り際に「ちょっと温泉でも寄ろうか」と言えるほど、あちこちに温泉があることがとても嬉しいのだとか。
■ 移住を考えている人へのメッセージ
進学そして就職と、山形に移住してきたのはある意味人生の流れだった浅井さん。しかし、今でもこの地に暮らし続けているのは、住み始めてから触れた山形の魅力のおかげだという。
「自然豊かで食べ物がおいしく、日本酒が根付いていて、そして温泉もある。例えば県内の温泉地を全部巡ろうと思えば、いくら時間がかかるかわかりません。自分なりに楽しもうと思えばいくらでも楽しめる場所が山形だと思います。だからこそ、もし何か少しでも琴線に触れるものがあれば、試しに一度来てみてほしい。来てから初めてわかる魅力もあるので、とにかく気になるなら是非山形を訪れてみて」、と浅井さんは言う。
最後に、浅井さんが仕事をする東北銘醸株式会社のおすすめの銘柄を聞いてみた。
「初孫 純米吟醸酒 魔斬(まきり)シリーズですね。大学生の頃に飲んで、その美味しさに衝撃を受けました。すっきりとした辛口でとても飲みやすいです」。
移住者ながら日本酒づくりに情熱的に関わる浅井さん。是非山形を訪れて、県産の日本酒に、そして魅力あふれる山形の人に直に触れてみてはいかが。
(R5.5月)